【旬のうまい魚を知る本】 >
▼江戸っ子が好んだ深川どんぶり

江戸期の川柳を調べていると、女性たちを表す隠語として貝類が使われている。これが面白くてついニヤッとしてしまう。アカガイは妙齢のご婦人、シジミは少女、ハマグリは一人前の女性か芸者、アサリは下町の女房を意味する。気取らないところはまさに共通している。
そんな江戸期を描いた時代小説で、江戸っ子が深川どんぶりをほおばる場面を読んでいて、つい生つばを呑み込んだことがある。アサリのむき身を醤油と酒で煮て、その汁でご飯を炊く。炊き上がったところでむき身を加えて混ぜ合わせる。どんぶりに盛り、きざみネギともみノリを散らす。江戸・深川の名物だったから、この名前で呼ばれるようになった。当時は東京湾で大量のアサリが獲れたろうから、今よりもずっと庶民の味だったにちがいない。今味わっても、深川どんぶりはなかなかいける。ときには江戸っ子気分でいかがですかな。
![]() | 東京書籍 (著:東京書籍) 「旬のうまい魚を知る本」 JLogosID : 14070326 |