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60歳からの人生を愉しむ心理学第1章 老朽化しない上手な年のと >

「失うもの」だけでなく「得るもの」もある

心理学の用語として使う「発達」とは、生まれてから死ぬまでの段階を言います。思春期、成人期、中年期、老年期......と発達の段階がありますが、それぞれの段階に「獲得」と「喪失」、「得るもの」と「失うもの」があり、その課題にどう取り組んでいくかが心理学的なテーマとなります。
思春期、成人期までは獲得することに重きが置かれていますが、中年期以降は失うものがたくさんあり、喪失にどのように向き合うかが大きなテーマとなっていきます。獲得と喪失の関係によって、発達の段階は質的に変わっていきます。
身体性、敏捷性は、加齢によって確実に失われていくもののひとつです。たとえば野球やサッカーの選手に六十代で第一線という人はいません。趣味としてのスポーツなら死ぬまで愉しめますが、身体性、敏捷性はいくら努力しても年をとって獲得していける能力ではありません。
けれども、知識や考える力は増えていきます。これは「結晶性知能」という能力です。新しいことを覚える記憶力は年をとると衰えますが、知識は年をとるほど蓄えられていくものです。蓄えた知識や技術を活用して何かを作り出す創造性も衰えません。知能の中の一部は結晶のようにどんどん蓄積されていくのです。
たとえば文学者などは、より思索を深め、より洗練された表現の技術を身につけていくなど、老いてますます素晴らしい作品を書く人がたくさんいます。また、会社の業績がよくて優秀な経営者は元気でハツラツとしています。それまでに得た経験、知識によって、より広く的確な判断力を身につけているのです。
ですから、失望するばかりではありません。老いても失うものばかりではなく、努力すれば獲得できるものがあるのです。老いて獲得する能力を発揮できるポジションを得られれば、ハツラツとした後半戦を送ることができるでしょう。「結晶性知能」という言葉はとてもきれいです。結晶のようにふくらんでいく。けれども、結晶させる元の経験や知識がなければ意味がありません。思春期、成人期にどれだけのものを獲得したのか、それが条件です。ただ年をとっていくだけなら、ただの老人。失っていくものが増えていくだけで、獲得はありません。
老いも若きも、努力なしに獲得できるものはないのです。




渋谷昌三(目白大学教授)
日本実業出版社 (著:渋谷昌三(目白大学教授))
「60歳からの人生を愉しむ心理学」
JLogosID : 8615372


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