一生に一度のごちそう、燕席
広大な中国は歴史が古く、多くの民族が住む土地柄ですから、料理の種類も豊富で、地域の特色もさまざまです。北京料理に代表される北方、上海料理に代表される東方、四川料理に代表される西方、広東料理に代表される南方と、大きく四つの地域に分けられます。
私が初めて中国本土に赴いたのは昭和51年、毛沢東の亡くなった1カ月後のことでした。上海空港に降り立ったときは毛沢東を悼む白、黒の薬玉や垂れ幕が多く見られました。ところが南京、天津と北上するにつれてその傾向は薄れ、北京では天安門広場で何万人という群衆の行進に出合いました。主席夫人であった江青を含む四人組が逮捕されたことを祝う人たちでした。手に手に赤い旗を持ち、笛や鐘、太鼓を鳴らして人々があちこちから広場に集まってくる情景は忘れられません。
その北京で招待された正式の宴席は、燕席と呼ばれる最高のもので、菜単(メニュー)には燕の巣、ふかのひれ、なまこなどがありました。私にとっても一生に一度のごちそうでしたね。中国料理では一般には前菜の盛り合わせのあと、炒め物が出て、メイン料理の大菜が出ます。鶏や鴨、または大きな魚のまるごと料理などです。そして湯(スープ)などのあと、饅頭やデザートになります。饅頭は私もよく知っていましたが、同じ材料でも糸のように細い生地が詰まっている銀絲捲は初めての味でびっくりしていたら、お土産にと包んでくださったのも懐かしい思い出です。
| 東京書籍 (著:岸 朝子/選) 「東京五つ星の中国料理」 JLogosID : 14071183 |