思い出に残る魚の味
戦争にあけくれたかのように思われる昭和ですが、太平洋戦争が始まるまで、夏休みは海辺で過ごすのがわが家の習いでした。子どものころは金沢八景近くの別荘で海軍航空隊の練習機が飛ぶ空を眺めながら泳ぎました。毎朝、天秤棒の前後に吊るした大ざるにシャコやイカ、タコのほか、タカベやイサキなどのぴちぴちした磯魚を入れて売りに来る漁師さんがいました。なかでも印象深かったのはシャコ。ごそごそと動き回るシャコを「イッセナ、ニッセナ」と数える節回しが面白く楽しみでした。そのシャコを大鍋でしょうゆと酒とみりんでさっと煮上げた味も忘れられません。
女学生時代の夏休みは宮城県石巻市の渡波の、北上川河口の家で過ごしました。すぐ傍が魚市場で、朝早くバケツを持っていくと山盛りに入れてくれるぴんぴんのイワシを持ち帰り、塩を振って焼いた熱々をはうはうと食べた思い出があります。残りはショウガをたっぷり加えて煮ました。
戦後、千葉県の五井の浜辺でカキの養殖を営んでいたときは、文字通り海面を飛びはねるトビウオの姿に驚きました。網にかかった魚は塩焼きのほか骨ごと2cmほどの筒切りにしてから揚げにし、揚げるはしからしょうゆにじゃーっとくぐらせて盛りつける、母から習った料理をつくり好評でした。
| 東京書籍 (著:岸 朝子/選) 「東京五つ星の魚料理」 JLogosID : 14071085 |