夏の楽しみ、アユとハモ
さわやかな緑の5月が終わり、梅雨の季節を迎える6月はじめ、東京ではアユ漁の解禁を待つ太公望は落ち着きません。アユは秋に河川で産卵し、仔魚は海に下って育ちます。翌年、生まれ故郷の河川に戻って産卵したあと一生を終えるので「年魚」とも、瓜類に似たすがすがしい香りがするので「香魚」とも呼ばれます。そのまま串に刺し塩を振って焼くのが一番ですが、生のまま背中から包丁を入れて骨ごと筒切りにし、酢みそやからし酢で食べる背越しという料理もあります。稚アユは天ぷらやから揚げに、また秋風が吹きはじめるころの子持ちアユの甘露煮は美味。口の中で卵がホロホロとほどける味が私は好きです。
梅雨の季節には瀬戸内海の水をたっぷり吸ってハモがいちばんおいしくなると京都の人に教えられました。東京育ちの私はアナゴはよく食べましたがハモは知らず、柿伝や辻留の椀種ではじめて知った素材でした。頭と中骨を除いたハモの皮目を下にし皮は切らずに幅一寸に24回の包丁目を骨まで入れて切り落とし、熱湯をくぐらせて冷水にとる切り落としという手法が見事です。かたくり粉をはたいて湯引きにしたハモは皮が縮んで身の包丁目が開き、花のように開くところから「ぼたんはも」の名前がありました。粉をつけずに湯引きして梅肉を添えたり酢みそで食べるのもおいしいし、秋になると名残のハモとはしりの松茸の贅沢な鍋物の味も忘れられません。祇園祭りに欠かせないハモの押しずしもときどき食べたくなる味です。
| 東京書籍 (著:岸 朝子/選) 「東京五つ星の魚料理」 JLogosID : 14071086 |