魚料理お国ぶり
東京育ちで魚といえばアジ、サバ、カツオ、マグロ、イワシ、サンマ、タイぐらいしか知らなかった私も、料理記者となって全国を歩き回ると、地方によって同じ仲間の魚も呼び名が変わったり、料理にもいろいろあることを学びました。たとえばアラとクエ。九州・福岡の料理屋ではじめて食べた刺身や鍋のおいしかったこと。福岡出身の友人が中心となり、東京の魚料理の店で毎年忘年会はアラの刺身と鍋の集いをしました。1mを超す大きなアラに一同歓声をあげたものです。味は淡泊でいくらでも食べられます。唐津のおくんちでは、丸ごとしょうゆや酒と砂糖の甘辛味で照りよく炊いて食卓の中央に置き、客をもてなすと聞きました。
同じアラ科でありながら和歌山県ではクエと呼び、日高町名物のクエ鍋を味わうために多くの人が訪れるとききました。私は最近、伊豆の下田のホテルでアラのあら煮を食べて感激しました。砂糖としょうゆの甘辛味で煮た目玉や頬肉のおいしかったこと。骨までしゃぶる思いでした。
同じ魚の煮つけでも関西は白身魚が多いせいか薄口しょうゆで煮上げますが、関東は濃い口しょうゆでこってりした味。旨みが出た煮汁をご飯にかけて食べるのが好きですが、女の品格は下がるようですね。
| 東京書籍 (著:岸 朝子/選) 「東京五つ星の魚料理」 JLogosID : 14071084 |