【東京五つ星の肉料理】牛肉料理 > 中央区
銀之塔
【ぎんのとう】

二枚看板を貫きとおして半世紀

銀座の片隅で半世紀余、料理はシチューとグラタンのみの一本気な商いが、役者や文士、銀座っ子たちを惹きつけてきた。
煮え立つシチューを土鍋で供するのは、創業間もなくから。久保田万太郎や舟橋聖一らの文士に「歌舞伎座の役者に出前できるスタミナ料理を」と頼まれて、創業者が考案したという。
牛肉はブランドよりも、肉を整える手間にこだわる。古い付き合いの店から仕入れるいわば普通の牛肉(といっても、そのクラスでは最上の牛肉)を、飽きず筋を取り脂を取りして丹念に仕上げ、たっぷりのだしや野菜、スパイスと一緒に5~6時間煮込んだ後、最低ひと晩は冷蔵庫に寝かせておく。
ミックスシチューはそんな手間ひまの精華、技の結晶だ。一つ鍋に同居するビーフとタンが、ほろほろ、さくっと舌を焦がす。下ゆでしてあるじゃがいもやにんじん、玉ねぎのほっとする甘さ。3日かけて作るデミグラスソースの、熱いからこその香ばしさ、しみじみと胃の腑にしみる味の忘れ難さ。
![]() | 東京書籍 (著:岸 朝子/選) 「東京五つ星の肉料理」 JLogosID : 14070811 |