【旬のうまい魚を知る本】 >
▼マンボウは浜みんなのものだった

マンボウは水面に横になってぽっかりと浮き、まるで昼寝でもしているようなときがある。漁師はこれを見つけると、モリを突いたり、手カギで引っかけて獲る。かつて全国の浜の多くでは、マンボウだけは獲った漁師一人のものではなかった。理由はわからないけれど、浜みんなのものだった。そのことをぼくに最初に教えてくれたのは、千葉県勝浦の漁師だった。
「つい先ごろまで、ここでもみんなで分けていた。沖でマンボウを突くと、無線で浜に連絡する。入港すると、漁師の家族が包丁と鍋を持って浜で待っている。それでめいめいに身と肝を切り分けて持っていくんだ」
浜で食べてしまうから、マンボウは魚屋に並ぶ魚ではなかった。そんな昔からの浜の習慣がなくなってきたのだろうか、最近では店先でよく見かけるようになった。
![]() | 東京書籍 (著:東京書籍) 「旬のうまい魚を知る本」 JLogosID : 14070464 |