【旬のうまい魚を知る本】 >
▼アンコウの吊るし切りと七つ道具

怪異な魚は美味だとされる。その伝でいえばアンコウはその代表格であろう。大きな顔はひしゃげたように扁平で、口の下や体表にはなんのためか小さな皮弁がいくつもぶらさがっている。大きな口の中には犬歯状の鋭い歯が無数に並び、全身がぶよぶよとして、その上ぬめりに覆われている。
こんな姿のアンコウだから、大型をまな板の上でおろすことは至難のワザだ。そこで福島県や茨城県の海岸線では、古くからアンコウの吊るし切りが行われている。アンコウの大きな口にカギをかけて軒下ほどの高さに吊るす。重石替わりに口から水を流し入れてから、腹に包丁を入れて、皮、肝臓、卵巣、胃袋、ひれ、白身、あご肉のいわゆる「アンコウの七つ道具」に切り分ける。七つ道具はすべて料理に利用でき、捨てる部分がきわめて少ない。
![]() | 東京書籍 (著:東京書籍) 「旬のうまい魚を知る本」 JLogosID : 14070234 |