【旬のうまい魚を知る本】 >
▼サンマの丸干しは脂の抜けたサンマにかぎる

サンマは漁獲された海域によって味に差がある。北海道東沖や三陸沖で漁獲されたサンマがもっとも美味とされるのは、寒流の豊富なエサを食べて脂がたっぷりとのっているからだ。サンマは南下するほど脂肪分が抜けておいしくなくなるとされる。もっともサンマを取材していると、味の評価は産地の数ほど異論があるから興味が尽きない。「北海道東沖のサンマは脂がのっているから塩焼きには向くが、味がくどすぎて刺身に向かない。刺身は常磐沖のサンマにかぎる」。これはもちろん常磐(福島県)のサンマ漁師の声である。
伊豆半島や紀州沖のサンマはたしかに脂はのっていないけれど、けっしてまずいわけではない。刺身や焼き魚に向かないだけで、この土地のサンマの丸干しやサンマずし(さえらずしの名が一般的)という傑作保存食は、脂の抜けたサンマでなければ上手に作れない。私は試みに三陸沖の脂がのったサンマで丸干しを作ったことがある。結果は腹は破れるわ、脂はまわってしまうわで、惨憺たる出来栄えであった。
![]() | 東京書籍 (著:東京書籍) 「旬のうまい魚を知る本」 JLogosID : 14070180 |