パスツール
【ぱすつーる】
公私混同で大論争!? 血の気の多い細菌学者
細菌学者パスツールは、基礎研究をめざす化学者としてスタートし、発酵の研究から乳酸菌や酵母を発見したり、低温殺菌法を編み出して、ワインやビールなどの醸造にも大いに貢献した。その後、蚕の病気の予防法を発見し、絹糸業を発展させるなど、フランスの産業にも大いに貢献している。さらに伝染病へと研究を進め、炭疽菌や狂犬病のワクチンを発明して予防医学で大きな功績を残したのである。パスツールは心優しい人で、狂犬病の予防接種を受けた子どもたちの身を案じて眠れないこともあったという。予防接種によって命を取りとめた子どもたちには手紙を書いて励まし、予防接種をしたけれども手遅れで回復しなかった少女が息を引き取る際は、最後まで少女の手を握り続けていたという逸話も残っている。人間の苦しみを減らすために一生を捧げたパスツールは、自分の研究について常に論争を繰り広げていた。その際の彼は舌鋒鋭く、ハナから喧嘩腰の凄まじさだった。しかし、彼の論争は、必ずしも学問的な意見の不一致からのみ起きたとはいい切れず、かなり公私混同している部分が多いという。たとえば、彼が繰り広げた数多くの論争のなかでも、かなり激しかったものの一つに、ロベルト・コッホとの論争がある。きっかけは炭疽病の予防接種をめぐってのものだったが、その実は、科学とは何の関係もない単なる喧嘩。コッホが一八七一年にフランスを破ったプロイセン軍に従軍していたために、ドイツ嫌いで愛国心の強いパスツールが激しく突っかかったのである。晩年にも、狂犬病やコレラの研究の協力をしてくれたエミール・ルーという人物と大論争を繰り広げたが、このきっかけも単なる個人的ないい合いからだった。近代医学の建設者とまでいわれた偉大なる科学者は、かなり血の気の多い人物だったようである。
| 東京書籍 (著:東京雑学研究会) 「雑学大全2」 JLogosID : 14820701 |