ケストナー
【けすとなー】
ベートーベンを冒?した?悪ふざけが過ぎた児童文学作家
ケストナーはドイツの詩人、小説家、劇作家で、児童文学『エミールと探偵たち』で名高い。ドレスデンで生まれ、一九一九年にライプチヒ大学に入学。苦学して大学に通うかたわら、詩や劇評を書くようになる。一九二七年にベルリンに移ると、詩や小説を次々に発表。とくに児童文学は爆発的な人気を得た。人気作家として収入が増えると、自分のできる範囲で貧しい人々を援助しようとした。一九三三年にヒトラーが政権を握ると、反戦平和主義的だった彼の作品は燃やされ、様々な迫害を受けた末、執筆を禁止された。そんななか、亡命せずに抵抗を続け、第二次世界大戦後、『ふたりのロッテ』でカムバックした。児童文学で名高いケストナーだが、実は意外な文章も書いている。まずその一つは、一九二七年にライプチヒで書いた『室内楽名演奏家の夕べの歌』という詩である。「ぼくのいとしい第九シンフォニーよ! ばら色の縞しまの下着を着けているのなら……」といった、当時にしてはエロチックな詩だった。悪のりでこの詩に友人が描いたエロチックな挿し絵をつけ、『プラウエン人民新聞』に発表したのだが、折しもこの年はベートーベンの没後一〇〇周年だったので、「第九交響曲を冒?した」とマスコミからいっせいに叩かれてしまった。また別の風俗小説『ファビアン』では、ナチスが台頭する当時のベルリンの退廃ぶりを誇張して風刺的に描き、エロチックでグロテスクな場面が多い。彼としては、道徳的な意図により、ナチスの主張や行動について読者に警告するという明確な目的を持ってこの作品を描いたわけで、それを理解した一部の知識人は絶賛した。しかし、多くの読者は、エロチックなシーンだけを取り上げてわいせつだと非難をしたり、逆に風刺には気づかず、わいせつ部分だけを求めて読んだりした。いずれにせよケストナーにとっては、頭の痛い反応だったようだ。
| 東京書籍 (著:東京雑学研究会) 「雑学大全2」 JLogosID : 14820275 |