阿波踊り
【あわおどり】
いまも続く庶民のストレス発散の歴史
徳島県は、自殺率が全国でも最下位の県である。二〇〇三(平成一五)年の統計によれば、徳島の自殺率は、全国の都道府県の中で最下位、つまり、人口に対しいちばん自殺する人の割合が少ない県なのである。徳島といえば、阿波踊り。海外でも関心が高く評価されている民衆芸能で、歴史も古い。伝統を守るだけでなく、その時代時代の踊りを反映し、現代の人々の生活にも密着した郷土芸能である。その明るい踊りや、踊りを盛り上げていく地域のあり方が、自殺者が少ないことに、いくらか関係しているようにも思える。徳島は、もともと豊臣秀吉の時代から蜂須賀氏が領主を続け、藍の生産を奨励したことで名高い阿波の国。藍を特産品として、藩の台所を潤していた。当時、もちろんストレスという言葉があったはずもないが、阿波の国の人々はかなり藩から抑圧された生活を送っていたという。阿波踊りのような民衆芸能は、その庶民のストレス発散のために生まれたのではないかという説が濃厚だ。藩主の蜂須賀氏は、大坂夏の陣に功績があったとして、淡路島にも領土をもらうなど、当時、四国では最も大きな大名。お国柄もあってか、藩主がかなり領民に厳しい押し付けをする封建制が強かったと思われる。そんな生活の苦しさのなかから、阿波踊りへのエネルギーが生まれたのではないのだろうか。いまでは、徳島の伝統芸能として大切にされている阿波踊りだが、当時は、むしろ藩としては踊りに水をさして禁止する政策だったという。民衆にしてみれば、祭りで思いっきり騒いで、その怒りを発散させてしまおうということだったのだが、民衆の団結を恐れる藩は、禁止や取締りを強化するばかりだった。それでも人々が藩の妨害に抵抗し続け、その誇りを守り抜いたからこそ、評価の高い民衆芸能として広く知られるまでになっているともいえよう。
| 東京書籍 (著:東京雑学研究会) 「雑学大全2」 JLogosID : 14820029 |