高師直
【こうのもろなお】
■8 人妻に横恋慕した高師直…とんでもないストーカー行為の結末は?
足利尊氏の執事として、室町幕府の実力者としての地位を築いていた高師直は、出雲国・隠岐国の守護である塩冶判官高貞の妻のうわさを聞き、何としても自分の女にしたいと願った。彼女は、もとは後醍醐天皇に仕える女官で、天皇が高貞に下賜した女性であり、美麗の評判が高かった。
師直はまず、『徒然草』の作者・吉田兼好に恋文の代筆を頼み、それを塩冶の妻に渡した。だが、彼女は封を切らず、そのまま捨ててしまう。これを知った師直は兼好に、「お前はまったく役に立たない」と言い、兼好を出入り禁止にしたという。
その後も師直は懲りず、武蔵国守護代で歌人としても知られる薬師寺公義に恋歌を書かせ、彼女に送ったが、見事な返歌で断られてしまった。
拒否されれば拒否されるほど、師直の塩冶判官の妻に対する想いは高ぶっていった。あるときなど、彼女への欲情を押さえきれずに、塩冶判官の屋敷へ忍び込み、彼女の入浴姿をこっそり覗いたという伝承さえ残る。まるでストーカーだ。
どんな手段を用いてもあの女を自分のものに、そう思った師直は、塩冶判官高貞を失脚させて妻を奪取しようと計画し、主君・足利尊氏に「塩冶判官が謀反を企んでいる」と訴える。尊氏は、師直の讒言を信じ、塩冶判官を捕縛しようとした。
これを知った塩冶判官は1341年、京都から妻と郎党を連れて失踪した。だが、追っ手に追い詰められ、播磨国影山(兵庫県姫路市)で自害して果てた。このとき、塩冶判官の妻も夫に殉じたと伝えられる。師直の権力を持ってしても、横恋慕した美女を自分のものにはできなかった。
| 日本実業出版 (著:河合敦) 「日本史の雑学事典」 JLogosID : 14625084 |