名シェフとの出会い
北京、広東の中国料理を看板にする店が多かった中で、私が上海料理を名乗る店に出会ったのは三十数年前のこと。新しい味探訪に熱心な友人に連れていかれた、中央線沿線の立川にあったホテル内の中国料理店でした。日常なにげなく食べていた野菜の味がいきいきとしていて、それが上品な小皿で提供されたこと、フカヒレの姿煮が浮いているフカヒレラーメンのおいしさに驚き、電車にゆられてよく通ったものです。
当時は大皿に盛って供されるのが普通だった中国料理を、フランス料理のように白い器で一人前ずつ運ぶスタイルにして中国料理界に新風を巻き起こした、その料理長の名は脇屋友詞さん。当時まだ三十代だったでしょう。その後、横浜みなとみらいにある「パン パシフィックホテル横浜(現パン パシフィック 横浜ベイホテル東急)」の中国料理総料理長に就任し、同ホテルで皇太子ご夫妻のご夕食調理総料理長を務めました。
現在、東京では赤坂アークヒルズの「トゥーランドット游仙境」や文京区の東大農学部そばの「上海家郷菜 玻璃家」などで上海料理の美味を多くの人に伝えています。また、オーナーシェフとして経営する赤坂の「Wakiya 一笑美茶樓」では、伝統的な上海料理に加えて中国各地を訪れて学んだ家庭料理や麺類、菓子類、中国茶などを広く紹介しています。中国料理を通じてワインの普及に貢献したとして日本ソムリエ協会認定・名誉ソムリエにも就任している脇屋さんならではの、上海料理をはじめ中国全地域の料理とワインを合わせる試みも楽しみですね。
| 東京書籍 (著:岸 朝子/選) 「東京五つ星の中国料理」 JLogosID : 14071189 |