北京ダックの誘惑
北京烤鴨は北京ダックとして世界中に知られている北京の名物料理。肉はやわらかく、皮はこんがりと焼けていて、その香ばしさと見た目に、食卓に運ばれてくるとだれもが思わずごくんと唾を飲み込むほどのメイン料理です。北京鴨は黄河流域で飼育されていた原産の肉用家鴨で、体が大きく、肉は脂がのってやわらかです。フランスではガチョウや鴨に強制的に餌を与えて肥らせ、10倍ぐらいに肥大させた肝臓をフォアグラにするという話ですが、北京鴨はそれよりも早く、15世紀ごろからとうもろこしや米糠やあら挽きの小麦などの餌を強制的に与えて肥らせる飼育法が行なわれてきたと聞きました。中国の食の歴史は凄いですね。
「烤」は「焼」と同じく「焼く」という意味で、直火で焼いたり炉を使ったりして焼きます。麦芽糖のやわらかい水あめを、下ごしらえをした家鴨の皮全体に塗って、こんがりと焼き上げます。皮はパリっとして香ばしく、肉はジューシー。切り分けて皿に盛って甜麺醤、ねぎの細切り、きゅうりのせん切りを添え、中国風クレープの荷葉餅で包んで食べます。原稿を書いているうちに食べたくなるお味。
私は本場北京では烤鴨専門店、全聚徳で食べました。香港では、数多くある焼きもの専門の焼臘店の一軒で開かれた、家鴨の舌や水かきなども利用してメニュー全品を家鴨でととのえる全鴨席という宴会に招待されたことがあります。中国本土はもちろん、香港は行くたびに新しい味に出会えますね。
| 東京書籍 (著:岸 朝子/選) 「東京五つ星の中国料理」 JLogosID : 14071188 |