【東京五つ星の肉料理】牛肉料理 > 台東区
フジキッチン
【フジキッチン】

浅草モダンの残り香が薫る

厨房に立つ店主・上原章さんは白髪が似合うダンディ、調理補助兼ホール担当の妻・満江さんは軽やかに舞う蝶そのまま。二人ともあか抜けて、かの白洲次郎・正子夫妻を連想させる。でもちっとも気取らず気さくなのは、夫は深川、妻は浅草と、そろって下町生まれのためか。現在の店は昭和46年に当地で開業。船室風の小さな店内は造りも温もりも当時と変わらず、静かに談笑する客たちは、船中での食事を楽しむ旅人のようだ。
売上の80%がシチューの当店では、自家製のソースが「店の命」という。1週間かけて作る使い足しなし・1週間使い切りのドミグラスソースはハンバーグに用いる。これをさらに低温で煮込み、あくや脂を取り除いたソースがシチュー用だ。ビーフシチューはあらかじめことこと煮込んでおき、タンシチューは前日に仕込んだタンを、注文ごとに人数分だけ切り分けて煮込む。命のソースを含んでビーフは口の中でとろけ、タンは舌を滑る。かけた手間が存分に生きた、これは心にしみる味。
![]() | 東京書籍 (著:岸 朝子/選) 「東京五つ星の肉料理」 JLogosID : 14070849 |