【旬のうまい魚を知る本】 >
▼漁師宿の膳は海の幸がふんだん

ブダイは刺身や煮付け、鍋、味噌汁などに料理されるが、匂いが強いためうまくない魚とされている。実はぼくもそう思い込んでいたのだが、式根島の民宿「潮風」であっさりとくつがえされてしまった。
「潮風」の主の前田清さんはれっきとした漁師であり、奥さんの実知子さんともども調理師の資格を持つ。おいしい宿の条件はそろっている。清さんは一本釣りで、一年を通じてキンメダイやメダイを狙って出漁する。刺網でイセエビや青ムロアジ、トビウオのほか、ブダイなどの磯魚を多く水揚げすることもある。風が強くて出漁できない日和には、磯の穴場で大好きなブダイ釣りに興じる。だから「潮風」の夕膳に海の幸がふんだんに並べられるのは、ごく当たり前のことなのだ。その日の夕食は、メジマグロとアオムロアジ、ブダイの刺身盛り合わせ、アオムロアジとトビウオの身を使ったたたき、ブダイのべっこうずし、オットンボという巻き貝、ブダイのあんかけ、ブダイのつっこし汁など。今思い出しても心が豊かになるほどだ。
![]() | 東京書籍 (著:東京書籍) 「旬のうまい魚を知る本」 JLogosID : 14070636 |