【旬のうまい魚を知る本】 >
▼志津川だけ(?)の伝統料理「ひらもの」

三陸海岸南部の志津川(しづかわ)町では、正月の膳にババガレイが並ぶ。その漁師町で民宿「松波荘」を経営する漁師の阿部孝義さんはこう教えてくれた。
「ここらは魚が豊富だから、ナメタが特別にうまいとは思わないけどなあ。理由はおれにもわからないけど、ここらでは昔から正月には必ず食べることになっているんだ。料理も独特だなあ。ナメタを天日に干して、いろいろな野菜と一緒に醤油味で煮るんだ。この料理を『ひらもの』と呼んでいる。もっとも、若い世代では漁師でも正月に食べない人はいるよ。伝統がすたれるのは残念だけど、正月のナメタは高価だから仕方ないともいえるね」
ぼくの取材の限りでは、宮城県の広い海岸線でも、「ひらもの」という興味あるババガレイ料理を受け継いでいるのは、ここ志津川だけである。ほかの浜では、いわゆる煮付けを正月料理の一つとして並べている。あるいは以前は「ひらもの」だったのが簡素化されて煮付けになったのかもしれない。
![]() | 東京書籍 (著:東京書籍) 「旬のうまい魚を知る本」 JLogosID : 14070613 |