【旬のうまい魚を知る本】 >
▼古くから縁起物として利用されてきた

イセエビの語源は、かの貝原益軒先生が著書『大和本草』に「此海老、伊勢より多く来る故、伊勢蝦と号す」と書いている通りである。もっとも江戸中期当時は伊勢で漁獲されたものを伊勢海老、鎌倉でとれたものを鎌倉海老と呼んでいたようである。
このイセエビ、わが国では古くから縁起物として利用されてきた。はやくも平安時代には祝儀や酒宴の飾りものである「蓬莱飾り」に使われていた。蓬莱とは古代中国の神仙思想の中で説かれる仙境の一つ。山東半島のはるか東方の海中にあり、不老不死の仙人が住むと伝えられた。そんな仙境に似せた飾りには、いかにも厳かな様子のイセエビがよく似合ったということだろう。
武士が政権の中心であった鎌倉時代になると、イセエビの形が甲冑に身をかためた姿を思わせるためか、盛んに儀式や祝儀に用いられた。時代が下った今日、披露宴の卓にイセエビ料理が登場するのは、古武士たれと男をふるいたたせる意味を持っているのだろうか。
![]() | 東京書籍 (著:東京書籍) 「旬のうまい魚を知る本」 JLogosID : 14070160 |