旅人木
【りょじんぼく】
旅人の渇きを癒したとされるオウギバショウ
シンガポールやマレーシアなどの熱帯地域でよく見かけるオウギバショウ。ヤシのような幹に、バナナのような葉が正面を向いた扇のように広がることからその名がつけられた。大きいものでは葉の長さは五メートルほどにもなるが、木ではなく草の一種で、日本でも熱帯植物園などで見ることができる。このオウギバショウ、「旅人木」または「タビビトノキ」という別名もある。葉が重なっている部分に雨水がたまり、旅人がその水のおかげでのどを潤すことができたからというわけだ。なんともロマンティックな由来だが、実際はどうも根拠がなさそうである。というのも、オウギバショウは通常、渓流のほとりなど水辺に生えるため、旅人がわざわざこの木から水を飲むという説は疑わしい。しかも、雨水などが葉のくぼみにたまったものだから、腐敗したり泥が混じっていることも多く、季節によってはボウフラの発生源になることもある。くれぐれも旅のロマンとばかりに、この水でのどを潤したりしないようにしていただきたい。ついでに、この葉がいつも一定の方角をさしているので、旅人の道しるべになったという話もあるようだが、これもそうでもないらしい。実際の木を見てみるとわかるが、てんでばらばらな方角を向いている。ちなみに、オウギバショウはバショウ科オウギバショウ属の常緑の中高木で、マダガスカル東部が原産である。似たようなものに南アメリカのギアナやブラジルに分布する「タビビトノキモドキ」というものがある。形はとてもよく似ているが、オウギバショウのおしべが六本なのに対してタビビトノキモドキは五本。学術的には別属とされている。
| 東京書籍 (著:東京雑学研究会) 「雑学大全2」 JLogosID : 14820952 |