ハイドン②
【はいどん】
交響曲の父の首は、墓から盗み出されたあげくに一五〇年転々とした
仕事にも友人にも恵まれ、幸せに見えるハイドンの人生だが、死後、とんでもない目に遭ってしまう。なんと、埋葬された遺体から首が切り離されて、一五〇年近く人々の手をめぐりわたることになってしまうのだ。事件には二人の男が絡んでいた。一人はオーストリアの王立監獄所長であるヨハン・ペーター。骨相学に興味があり、頭蓋骨を集めることが趣味だったらしい。彼は立場上、多くの数の頭蓋骨を手に入れることができたが、「一度でいいから、極悪非道の悪人ではなく、天才といわれる人間の頭蓋骨を調べてみたい」と熱望していた。そんな折、ハイドン死去の知らせが飛び込んできた。すぐさまペーターは夜陰に乗じて墓を暴き、ハイドンの首を盗み出してしまったのである。そして盗んだ生首に化学処理を施して、きれいな頭蓋骨に仕上げて綿密な測定を繰り返した。その結果、「ハイドンの頭蓋骨には、音楽丘の隆起が見られる」という結論を導き出したのである。彼はそれを論文にまとめて発表したという。このニュースを聞きつけたのが、二人目の奇人、ハイドンのパトロンだったエステルハージ公爵の秘書ローゼンバウムだった。彼はハイドンの頭蓋骨を譲り受け、特注のガラスケースに納めて、ビロードを敷いた台座の上に置き、訪問してくるお客に自慢していた。しかし、ローゼンバウムはその後怪奇現象に見舞われることになる。深夜、頭蓋骨が不気味な音を発しながら宙を飛んでいたのだという。彼が手放した後も、手にした者に同じような怪奇現象が起きたらしい。そして第二次世界大戦後、今度はハイドンの胴体がソ連(現・ロシア)に持ち去られてしまう。しかし、その後、「ハイドンの首と胴体を一緒にしよう」という動きが出た。そして一九五四年八月二一日、故郷アイゼンシュタットの墓地で、ハイドンの首は実に一五〇年ぶりに自らの胴体と一緒になることができたのである。
| 東京書籍 (著:東京雑学研究会) 「雑学大全2」 JLogosID : 14820691 |