打診
【だしん】
宿屋で生まれた診断方法
医師が患者の胸に指を当てて「とん、とん、とん」と叩く仕草。これを「打診」という。いかにもお医者さんらしい仕草だが、なんとなく叩いているのではもちろんない。れっきとした診察の方法なのだ。最初に打診による診察方法を考えたのは、オーストリア人の医師レオポルト・アウエンブルッガーだといわれる。トントンと叩いた音の響きから、内臓の状態を判断するというものだ。時は一八世紀、もちろん現代のようなレントゲンやCTスキャンなどという人の内部の様子を診断する機器は一切なかった。このレオポルト医師は宿屋の息子だった。あるとき、宿屋を経営している父親が、客に出すための酒の残量を調べるのに、「とん、とん、とん」と酒樽を叩いているのを見て、「これだ!」と思いついたという。酒樽を叩いてみると、音の高低で残量がわかる。鈍い低い音ならたっぷり、軽い高い音なら残りわずか。このことを利用して、人体の臓器の内部の様子がわからないだろうか、と考えついたのである。この診断ができるようになるには、熟練した医師としての腕が必要だったというが、健康なときには臓器がシッカリ詰まっているような重い音、ガスが溜まっているような場合は軽い音、水が溜まっているときにはボコボコとした音がするという。酒樽と同じように、毎日毎日、いろいろな人の体を「とん、とん、とん」と叩くことで、その微妙な音の違いがわかるようになったに違いない。昔は医師も職人だったのである。この打診法、現代ではレントゲンやCTスキャンに頼りがちなので、若い医師などがしているのをめったに見かけない。
| 東京書籍 (著:東京雑学研究会) 「雑学大全2」 JLogosID : 14820527 |