息
【いき】
吐く息が白くなるのは、気温がだいたい何度くらいに下がったとき?
たとえば、こんな発見をしたことはないだろうか? 春先のテレビ番組改編時に特番のドラマを見ていると、俳優はパステルカラーの春色の服を着ているのに、セリフをいうと画面に白い息が吐かれているのが映し出されるというような……。これはおそらく、そのドラマのロケが一月か二月におこなわれたからに違いない。体温が三六度前後の人間の吐く息は、だいたい同じくらいの温度だ。しかも体内から吐き出される呼気だから、水蒸気を含んでいる。セリフとともに吐かれて気温の低い外気に触れた呼気は、急激に冷やされたために水分の一部が凝結して水になる。それが日ざしや撮影のライティングの関係によって白く見えてしまった結果だ。この現象は、寒い日に戸外で凍えた手を温めようと息を吹きかけると、息が白く見えるというのと同じで、誰もが一度くらいは見た経験があるはずだ。このテレビドラマの場合、吐く息の温度を下げるために口に氷でも含んでおいて呼気の温度を下げておけば、呼気が水滴をつくって白い吐息が映像に残ることはなかったはずなのだ。では、このロケのとき外気の温度がどのくらい低かったから呼気が白くなったのかというのは、様々な条件が重なってのものなので一概にはいえない。一般的に人間の体温から推測すれば、おおよそ摂氏一〇度くらいと思われる。三六度前後の水蒸気が凝結を起こす温度がそれくらいだからである。ただ凝結には湿度も影響する。空気が乾燥していれば呼気に含まれる水蒸気はすぐに蒸発して、いくら気温が低くても水滴に凝結しない。普通は一四度くらいまで下がらなければ息が白く見えるようにはならないが、湿度が一〇〇パーセントだと、一七度でも凝結が起こってしまう。テレビドラマの画面一つにも、科学の神秘を見つけることができるという例である。
| 東京書籍 (著:東京雑学研究会) 「雑学大全2」 JLogosID : 14820035 |