三角布
【東京雑学研究会編】
§死者のおでこに三角布をつけるのはなぜか?
仏教の葬式では冥土への旅支度として、手甲、脚半、わらじをつけ、さらに三途の川の渡し賃や、タバコ、めがねそのほかの身の回り品を入れた頭陀袋を持たせる。これは、それなりに意味を理解できるのだが、死者の額に鉢巻のようにつけられる三角の布には、一体どんな意味があるのだろう。
あの三角の布、実は、もともと神道式の葬式のみに使われていた。神道では死は「穢れ」と考えられ、その穢れを祓うのが葬式だったのである。穢れはときには伝染する。また、悪霊がとりついて人を殺すこともあると考えられた。そこで、穢れの伝染の防止や悪霊退治の意味を込めて、三角の布を頭に巻いたのである。なぜ三角にしたのか、確かな由来はわかっていない。たぶん、それが身につけやすい形だったのだろう。
埋葬の方法も、死者を窮屈な格好で棺に納めたり、死者を縄で縛って悪霊を封じ込めようとしたりした。
屈葬や縛葬といわれるものが、それである。
一方、仏教では、冥福を祈って死者を送り出すために、葬式を執り行ったのである。来世の安穏無事と幸せを願った仏教の葬式の中に入り込んだ神道の思想、それが三角の布である。
死者の出た家の家族全員が、三角の布をつける風習が今も残っている地方がある。悪霊を祓い、喪に服していることが、周りの人にわかるように、そして、死が伝染しないようにとの意味である。こうして一定期間社会と隔絶して生活すること、これを喪屋制度という。
仏教流の旅支度と三角布。なんだか妙なスタイルだが、最もポピュラーに普及してしまった。日本人の神仏混淆の宗教観が、こんなところにも顔をのぞかせている。
マンガやお笑い番組にも採り上げられては、笑いを誘い、お化けや幽霊の定番のようないでたちになっている三角の布、今も喪に服すときに身につけている人たちがいることを思うと、その精神的な意味と長い歴史を尊重したいものである。
| 東京書籍 (著:東京雑学研究会) 「雑学大全」 JLogosID : 12670397 |