明月庵 ねりま田中屋本店(閉店)
【めいげつあん ねりまたなかやほんてん】
東京屈指の名店のひとつ
練馬の田中屋といえば、名人といわれた田中國安氏が昭和31年(1956)に開業した店。都内ではいち早く手打ちを採り入れ、車エビの天ぷら、わさびの1本出しなども田中屋が先駆だった。平成9年からは現店主の野口一也さんに代替わりしている。
「田中さんにいろいろと教わりましたが、そこで学んだのは、いい材料を使って、昔ながらの当たり前の仕事を手を抜かずにやることが大切だということです。幸い昔からの職人さんも残っていただいたので、田中屋の味を引き継ぐことができました」と語る。
そばは幌加内を中心に北海道産の玄そばを1年分買い、製粉会社に特別に作らせた石臼で製粉して、店の地下に備えられた冷凍庫で保管する。
地下には室温や湿度を一定に保つために二重構造にしたそば打ち場もあり、毎日使う分だけを冷凍庫から出して手打ちすることで、一年を通じて新そばと変わらない味を提供することができるという。
そばのパートナーともいえるつゆは、粉砕した亀節を通常の3倍ほどの量を使って一気に煮出すことで、苦みや雑味のないスッキリした味に仕上げる。温かいそば用には亀節に宗田節、屋久鯖節を加えることで、味に深みを与えている。
できあがったつゆは、その都度、濃度や塩分濃度を測定するという。冷凍保存のそば粉といい、つゆの測定といい、科学的に管理することで一年中変わらない味を提供していることに驚かされる。
田中屋のそばは盛りが薄く、量も少ないという印象を持つ人も多い。
「水切れのよさを考えた盛り方で、昔に比べると30g以上も増えています。せいろを大きくしたので気づかれないのかもしれませんが……」と野口さんは苦笑い。
しかも、価格は20年来変わらない。美しく盛られた薬味にも丁寧な仕事ぶりが伝わってくる。コストパフォーマンスを考えたら決して高いそばとはいえない。
| 東京書籍 (著:見田盛夫/選) 「東京-五つ星の蕎麦」 JLogosID : 14071210 |