かんだやぶそば
【かんだやぶそば】
藪そばの名店
中央線の神田駅と御茶ノ水駅の間に、今も古いプラットホームが残っている。これは、昭和11年(1936)まで存在していた万世橋駅の名残。平成18年5月までは、駅舎部分に交通博物館が置かれていた。万世橋駅は東京屈指のターミナル駅だったことから、駅前には多くの飲食店が軒を連ねていたという。その頃は連雀町と呼ばれ、旧交通博物館の西側から外堀通りへ通じる路地が往時のメインストリートだった。現在も情緒を伝える木造の老舗が路地の両側に数軒残り、万世橋駅が賑わった時代の面影を垣間見ることができる。
かんだやぶそばも、その一軒だ。創業は明治13年(1880)のこと。かつて、ここには幕末の頃から本郷団子坂でそば屋を営んでいた「蔦屋」の支店があった。蔦屋には竹薮が多く、通称「やぶそば」と呼ばれていたという。その支店を初代の堀田七兵衛が買い取り「連雀町藪蕎麦」として創業したのが、名店かんだやぶそばの始まりである。
創業当時の店舗は大正12年(1923)の関東大震災で焼失。現在の建物は同年12月の再建だが、その歴史の長さと風情から平成13年に東京都の歴史的建造物に指定された。板塀に囲まれた木造平屋の店舗は「やぶそば」の看板がなければ、武家屋敷のようなたたずまいだ。
そばは淡い緑色をした外一。外一とは、そば粉10に対してつなぎ(小麦粉)1の割合で打ったそばのこと。淡い緑色のそばは初代から続く、かんだやぶそばの特徴。たんぱく質に富んだクロレラを少々混ぜて、夏でも食欲をそそるこの色を出している。つゆは昆布とかつお節からダシをとった辛口。つゆにそばを半分ほどつけて食べるのが、ちょうどいい。
店内は建物の見た目よりも広く、小上がりを含め80席ある。どの席からも庭が望め、思いがけない静けさとともに東京にいることをしばし忘れさせてくれる。
石畳に打ち水をし、女将が帳場に座ると、まもなく開店の11時30分。大きな木戸を開け、花番(接客係)の客を迎える威勢のいい掛け声で、かんだやぶそばの一日は始まる。
| 東京書籍 (著:見田盛夫/選) 「東京-五つ星の蕎麦」 JLogosID : 14071208 |