総本家 更科堀井
【そうほんけ さらしなほりい】
九代続く更科の名店
麻布十番商店街に面して立ち、軒先に下げられた「そば」と書いた大きな提灯が目を引く。創業は寛政元年(1789)と古く、現在九代目を数える。
名物のさらしなそばは、そばの実からわずか15%しか取れない芯だけを使った、雪のように白い細打ちの麺。つややかで透明感があり、ほのかな甘みと軽い食感が特徴だ。この店では、まだ製粉技術が発達していない頃から色の白い麺を打っていたが、現在の更科粉に近い白い粉を開発したのは明治中期の六代目女将の頃。純白の気品漂う麺は評判を呼び、店は最盛期を迎える。皇居や宮家にも出前を届けていた。
しかし、昭和16年(1941)には、戦時下による時勢の変化などで閉店に追い込まれる。戦後、歴史ある暖簾を再興させようという出資者が現れ、店を再建するが、会社組織の中では思うようなそばが打てなかった。そこで、昭和59年に八代目(現会長)が独立して、今の店を開業した。
現在は、さらしなそばをはじめ、4種類のそばがある。「もり」は、主として北海道産のそばの実を店内で自家製粉して手打ちした色の濃いそば。昼の分は朝に、夜の分は午後に打ち、作りたてを心がける。十割そばの「太打ち」は、もりそばで用いる粉に、殻ごと挽き込んだ手挽きの粉を混ぜて打つ。香りも味も濃く、力強い食感が楽しめる。さらしなそばに旬の食材を打ち込んだ色鮮やかな変わりそばも人気。初夏のよもぎ切り、冬のゆず切りなど一年に約24種類ある。
つゆは甘口と辛口の2種類が出され、好みによってブレンドもできる。辛口のつゆは、うまみ成分の多い本枯節を煮詰めたダシに2週間以上ねかせたかえしを加え、これを土製の壺に入れて湯煎にかける。こうすることで、粗い粒子が壺で濾過され、口当たりのなめらかなつゆが出来上がる。辛口は生返しなのできりっと、甘口は本返しでまろやかに仕上げている。
カラッと揚がった天ぷらや玉子焼を肴に季節の地酒を楽しみ、締めにそばを味わうのもいい。脂のうまみがしみ出た鴨南蛮など種ものも美味。完成度の高い老舗ならではの味が楽しめる。
| 東京書籍 (著:見田盛夫/選) 「東京-五つ星の蕎麦」 JLogosID : 14071207 |