入れ込みの座敷がいい うなぎ割烹 尾花
都心を離れて南千住まで行くこともあり、この店を訪れるときはたいていが遠足気分だ。開店を待って、いつも門の前に何人かの客がたたずんでいる。予約は取らない。門が開いて大きな玄関から店に入ると、すべての客は到着順に、畳敷きの六、七十人は入ろうかという入れ込みの大広間に通される。塗りのちゃぶ台はみるみる満席。座って、小1時間ほどは待つ。なぜなら、座った客の注文を受けてからうなぎを割くためである。私たちの注文は白焼、名高い大串、うな重に蒲焼、それに待つ間を繋ぐお新香、と単純だ(この日は残念ながら大串はなく、勧められた中串にする)。
お新香が本当においしい。紫紺とはこの茄子の漬物のための言葉か、と思わせるほどのあざやかな色。そして大根、きゅうりなど、歯ごたえと季節の香りを小鉢一つに盛りつけているのは、まことにみごとだ。
やがて白焼が運ばれてくる。山椒醤油で食べる白焼きは、さわやかな脂が舌に残る。次に中串、つづいてうな重と蒲焼を、肝吸いと一緒にいただく。中串とはいえ青磁の大皿に堂々と、飴色も艶やかなたれの香味も芳しく、身を舌にのせれば、ふんわりととけてゆく。味は濃厚だ。うな重、蒲焼に比べ、中串はたれが違うのかと思えるほどの味だったが、店の人は「同じたれを使っています」という。なるほど、これはうなぎの大きさにより、脂の味が違うのだと思い当たった。大満足。畳の座敷ということもあり、食後はのんびりと寛いだ。
| 東京書籍 (著:見田盛夫/選) 「東京五つ星の鰻と天麩羅」 JLogosID : 14070805 |