【旬のうまい魚を知る本】 >
▼ソデイカ釣りは「ヒキジ」が命

タル流し釣りに使うバケがまたユニークだ。相手が大型のため、長さが30センチ弱もある。白い布で巻いてあり、まるできりたんぽのよう。その下に大きなイカバリが結ばれている。「白い布を巻くのはアカイカが抱きやすくするためだよ。内部の素材と全体のバランスについては、漁師それぞれに秘訣があり、人には絶対に教えない。帰宅するときも船に置かず、必ず自宅に持ち帰っているんだ」。
米田さんは道具を流し終えると、漁船をゆっくりと走らせて、漁場を何度も往復しては、ウキの変化に目を凝らす。「ほら、あのウキが立っただろう。あれはアカイカがイカヅノにのった証拠だ」。手に糸を持ったベテラン漁師は、ソデイカの引きに合わせて、両手でやったりとったり(これを田後の漁師言葉で「ヒキジ」という)して、慎重に糸を手繰っていく。およそ100メートルの海中から、やっと海面に姿を見せたソデイカはさすがに大きかった。胴の長さ60センチ、重さ12キロはありそうだ。
こうして米田さんは、立っているウキを見つけては、ソデイカを次々に釣り上げていった。田後のソデイカ漁は、8月後半から12月まで続く。
![]() | 東京書籍 (著:東京書籍) 「旬のうまい魚を知る本」 JLogosID : 14070548 |