【旬のうまい魚を知る本】 >
▼名人のシッタカ漁を見学

伊豆半島先端を占める松崎町の半農半漁の小さな集落で取材していて、こういう隠れ里には稀少なシッタカもまだ多く生息していることを知った。ここの民宿のオヤジが自他ともに認める貝獲り名人なのだ。この日もぼくが到着すると、満を持していたように、「磯に行きましょう」。こちらの返事を待たずに、さっそく眼鏡漁の支度にとりかかった。胴長ズボンを身に付け、磯足袋を履き、箱眼鏡と小ノミとタモを用意して、手漕ぎボートに乗り込んだ。沖の堤防にボートを寄せ、持ったタモで岸壁にへばりついている海中の小貝を強引にすくい取る。いくつかはぱらぱらと海中へこぼれるが、多くはタモの中に収まるから効率のいいこと。小貝獲りは海中をのぞき、じっと目を凝らして一つひとつ獲るものだと思っていたので、このときはあっけにとられてしまった。あっという間にシッタカやニシがたくさん穫れた。
オヤジは今度は磯にボートを寄せ、膝の下まで海中に浸かって手を伸ばして岩の下をさぐる。こうして大きなシッタカ十数個を確保した。「大型は塩ゆでにして酒の肴、小さいのは味噌汁だな」とニンマリ。
![]() | 東京書籍 (著:東京書籍) 「旬のうまい魚を知る本」 JLogosID : 14070363 |