【旬のうまい魚を知る本】 >
▼あふれ出る肉汁にぞっこん

奥さんの芳枝さんが、熱湯で殻ごとゆでてくれた。こいつのおいしさを知らなければ、目にしただけで遠慮したにちがいない。なにしろ亀の手そっくりなんですからね。芳枝さんに教えられたとおりに(これまで各地で何度も教えられているのに、すっかり忘れているのだ)、頭状部の殻を割り、肉柄の皮をむき、淡いピンク色の小さな身を吸い込むようにして味わった。これはどうだろう! 貝でもなく、カニでもなく、ましてや魚でもない美味。やわらかいのに、生意気に歯ごたえがあり、噛みしめると肉汁があふれる。外見には似つかわしくないすっきりした上品な味わい。それでいて磯の生物が持つ濃厚さも十分に持ち合わせているのだ。カメノテ料理にはほかに味噌汁と吸い物が秀逸。
![]() | 東京書籍 (著:東京書籍) 「旬のうまい魚を知る本」 JLogosID : 14070357 |