【旬のうまい魚を知る本】 >
▼マダコの用心深さを逆手に取ったタコ壺漁

見た通り、マダコはほかの多くの海の生物が持っているような、わが身を守るウロコも殻もない。むきだしの体だから天敵のマダイやウツボの鋭い歯でやられたらひとたまりもない。マダコがよほど用心深いのはそのためだ。昼間は岩のあいだにひそんでいて、夜になると長い腕を巧みに使ってエビやカニなどをからめとる。そのマダコの用心深さを逆手に取ったのが伝統漁法のタコ壺漁である。小心者のタコにとって壺は格好の隠れ家だ。やれうれしやとその底にじっとひそんでいるところを家ごと漁獲してしまう。「とくに食事中は天敵に襲われやすいために壺をよく利用するようだ。壺の中のタコはカニや貝などの食べ残しといっしょに上がってくることが多いからな」とはタコ壺漁師の証言である。なおマダコは見かけによらず清潔好きで、古くなったタコ壺にははいりたがらないらしい。
![]() | 東京書籍 (著:東京書籍) 「旬のうまい魚を知る本」 JLogosID : 14070053 |