マリー・アントワネット②
【まりーあんとわねっと】
「パンがなければ、ケーキをお食べなさい」などとはいっていない?
時代を超えて幾度となく映画やテレビの題材になり、伝記や小説の主人公として名高い一八世紀のフランス王妃マリー・アントワネット。「パンがなければケーキをお食べなさい」といったとされる名言(!?)は、彼女がケーキが大好きだということを表現するための言葉ではない。当時、爪に火を灯すような生活を送っているフランスの民衆たちに、民衆の敵「貴族」をつくり上げるため、ベルサイユ宮殿で自分のために贅沢三昧に振る舞っているマリーを使って、フランスに革命を起こすためにつくり出された話であるかもしれないのだ。こう唱えはじめたのは、イギリスの歴史文学者アントニア・フレイザー女史だ。マリーは、確かにお菓子が大好きであったし、ファッションにも興味があって、年間に一七〇着もの自分用のドレスをつくらせており、その衣装代金はある研究によれば現在の一四〇億円に相当するともいわれている。このときパン一切れに苦しんでいる民衆はさぞや頭にきたに違いない。これまでの映画や伝記でいえば、フランス軍にとっては確かにシンボリックなヒロインであったかもしれないが、民衆にとっては、恨みの対象となるような面もあるのが彼女の個性なのだ。しかし、フレイザー女史は、この誤解を解きたいと真実のマリーの姿を伝記にしたのである。この伝記が日本では二〇〇七(平成一九)年に公開されたコッポラ監督の映画『マリー・アントワネット』の原作なのだが、その映画に次のようなシーンがある。ある日、連夜宮殿では贅沢な舞踏会がおこなわれていることを載せた新聞記事に、「パンがなければ、ケーキをお食べなさい」と彼女がいったという記事が載っているのを見て、マリーは、ただ「あたし、そんなこといわないわ」というだけである。フレイザー女史の研究では、彼女は自分の母に宛てた手紙で民衆を気遣う優しさが綴られているし、王家ではただ一人、農民の畑を馬で踏みにじらなかったという。しかもこの「パンがなければ、ケーキをお食べなさい」という高圧的な言葉は、マリー・アントワネットがいった言葉ではなく、すでに一世紀も前のルイ一四世の妃の言葉として有名であったといわれている。
| 東京書籍 (著:東京雑学研究会) 「雑学大全2」 JLogosID : 14820848 |