ベートーベン
【べーとーべん】
難聴のベートーベンが使った「会話帳」
作曲家であるのに、晩年に聴力をほぼ失った悲劇的な宿命のベートーベン。その悲劇的な宿命は映画などの題材としてもしばしば使われるが、その理由の一つに、晩年の彼のおこないが、かなりはっきりと伝記として残っているからということもある。実は伝記が残っている理由も、彼の悲しい宿命に由来する。多くの歴史上の人物について、伝記作家などは、あらゆる歴史書や近隣の人々の証言を元に、多くのことを想像や創作で埋めていかなければならないのだが、ベートーベンの場合は、彼が晩年に耳が聞こえなくなってしまったために、筆談という形で実際に語られた言葉(書かれた言葉)が残っているのだ。ベートーベンは、ほぼ音が聞こえなくなった一八一八年以降、彼に接する人の多くと筆談でコミュニケーションをとっていた。これが「会話帳」であり、ほぼ縦一八センチ×横一二センチのノートブック状のものである。何百冊にもなるが、ベートーベンの伝記の資料としてだけでなく、この一八二〇年代のウィーンの日常生活調査などに関しても、かなり貴重な記録という意味を持っている。ただ、残念なことといえば、ベートーベンは言葉を話すことはできたため、会話帳の中身はほとんどが話し相手の記述ばかりで、ベートーベンがその問いかけに対してどう答えたのかは、推測の域を出ないことである。しかし、ベートーベンは、この会話帳を手帳代わりにも使っていたと思われ、買い物リストが登場したり、計算や書簡の下書き、そのほかの記録なども書かれている。また、この会話帳を悪用した人物もいた。ベートーベンと親密だったとされるシンドラーは、自分とベートーベンの関係において、自分に有利な部分だけを残して、不利益であろう部分は削除したり、あたかもそうであったかのように事実無根のことを書き込んだりもしている。しかし現在では、科学技術のおかげで、このシンドラーの書き込みが後から加えらたものとして判別がつくようになり、偽造された歴史はきっちり白紙に戻されている。
| 東京書籍 (著:東京雑学研究会) 「雑学大全2」 JLogosID : 14820788 |