春一番
【はるいちばん】
死者も出る! 実は危険な春の突風
冬が終わり、春の訪れを告げてくれるのが「春一番」と呼ばれている風だ。普通、立春を過ぎて初めて吹く南風のことをこう呼んでいる。日本に春が近づくと、冬型気圧配置の西高東低がゆるみ、温帯低気圧が日本海を北上しはじめる。その低気圧に向かって南から吹き込む強い南風が、春一番の正体である。ところが、待ち焦がれていた陽光を感じさせるような明るいネーミングの春一番も、その正体は名前の印象とは裏腹だ。南風が吹くために気温が上昇し、風が日本列島の中央を縦に貫く山脈を越えると、日本海側に「フェーン現象」をもたらす。それが降り積もった雪をとかして雪崩や鉄砲水といった災害を生み、死者さえ出しかねない。また急激に吹き込むため、突風となって台風並みの被害をもたらすこともある。一九七八(昭和五三)年には東京で瞬間最大風速四〇メートルを記録したこともあるほどだ。この強風で高架を走る電車が転覆するという事故が起きたり、東京港にあった大型クレーンが動いたりという騒ぎが起きたりした。気象庁は、春一番を「立春から春分までの間に吹く秒速八メートル以上」の風とし、吹く方向まで定義しているが、春一番という言葉が使われるようになった記録は、一八五九(安政六)年に長崎県の壱岐の漁船が、五島沖で突風による海難事故を起こしたことまでさかのぼるという。五三人の漁師が亡くなったというこの事故以来、漁師たちは「春一番が吹くまでは船を出さない」と警戒するようになったと伝えられている。気圧配置や気象用語を知らなくても、漁師たちは春先の南風の怖さを知っていたのである。
| 東京書籍 (著:東京雑学研究会) 「雑学大全2」 JLogosID : 14820722 |