考える人
【かんがえるひと】
ロダンの「考える人」は、本当は「見ている人」
あなたはロダンの名作『考える人』がいったい何を考えているのか考えたことがあるだろうか。東京の国立西洋美術館の前庭にたたずむ、あの『考える人』は、何かもの思いにふけっているような、深刻な悩みがあるような、どこかしら「考えている」ような感じがなくはない。タイトルが『考える人』なのだから何を考えているのかと思いきや、実はこの彫刻の人物、考えているのではなく「見ている」のだという。それではいったい何を見ているのか。この彫刻の人物、実は下に広がる地獄をじっとのぞきこんでいるというのだ。『考える人』はもともとロダンの『地獄の門』という大作の一部であった。この作品はフランス政府の注文により、装飾美術館の門扉として制作されたもので、高さ六メートル、幅三メートルの門の形をしている。この大作は罪人たちが落ちてゆく地獄絵図が立体的に描かれていて、ボードレールの『悪の華』やダンテの『神曲』などの文学作品、ミケランジェロの『最後の審判』などの芸術作品を参考につくられた。『考える人』はその大作のなかから単独に切り離した像として知られているのである。それではなぜ、『考える人』という題名なのか。実は『考える人』は最初からこのタイトルだったわけではないようだ。一八八六年一〇月、最初に発表されたときには「詩人」というタイトルであった。しかし次の発表のときには「詩人?考える人」に変わってしまったのである。しかも、このタイトルはロダン自身がつけたものではなく、鋳造家のリュディエという人物がつけたものなのだ。ロダンの『考える人』は考えているのではなく、「地獄を見ている人」だったと知っている人は意外に多くはないだろう。
| 東京書籍 (著:東京雑学研究会) 「雑学大全2」 JLogosID : 14820199 |