ジャスミン油
【東京雑学研究会編】
§一滴のジャスミン油には二〇〇輪以上の花が必要
香水や室内芳香剤、そして入浴剤でもおなじみのジャスミンは、モクセイ科の花。原産地は熱帯から亜熱帯にかけてで、ペルシア(現・イラン)やインドでは、古くから香油の原料にされてきた。中華料理店で出てくるジャスミン茶も、同じ仲間の植物を茶にしたものである。
ところが、このジャスミンは大変デリケートな植物で、温暖な気候と水はけのよい土地で、手間をかけなければ、なかなか育たない。近年では、南フランス、イタリア、エジプト、モロッコなどで栽培されているが、香りを抽出するのも、また苦労である。
ジャスミンの花は早朝に開花するのだが、日ざしに当たると香りの成分がどんどん失われてしまう。そのため、できるだけ朝の早いうちから作業を開始し、短時間でいっせいに摘み取らなくてはならない。
香りのエッセンスである精油は、石油エーテルで抽出するか、牛脂や豚油を塗ったガラス板に花を置いて抽出するのだが、それをさらにアルコールで再抽出し、水蒸気で蒸留して精製する。
しかも、たった一滴の精油をとるために、二〇〇輪以上のジャスミンの花が必要なのである。
一キログラムを出荷するためには、ざっと五〇~六〇万輪の花を摘まなくてはならない。これは、三五〇人が、二四時間働くことになるという。
これほどの人手がかかるのだから、人件費も莫大で、精油はとんでもなく高価なものとなる。世が世なら、王侯貴族しか嗅ぐことができなかった香りだろう。
「あれ? うちのトイレの芳香剤は、ジャスミンだけど安かったよ。おかしいな」と首を傾げる人がいることだろう。
こういった製品のジャスミンの香りは、当然のことながら、天然の花からとったものではない。ジャスミンの香りを模した、合成香料である。
| 東京書籍 (著:東京雑学研究会) 「雑学大全」 JLogosID : 12670439 |