コンビーフ
【東京雑学研究会編】
§コンビーフの缶詰はなぜあのような形をしているのか?
店頭でコンビーフの缶詰は異彩を放っている。
ほとんどの缶詰は円柱形。サンマの蒲焼などの楕円形も、オイルサーディンのような四角もあるが、それらも上面と下面は同じ寸胴型で、コンビーフのような台形というのはほかにない。
あの専用のオープナーがついた開け方も独特だ。一九七〇年代の名作ドラマ『傷だらけの天使』のオープニングで萩原健一が見せて流行らせた丸かじりも、あのオープナーあってこそできた。
しかし、コンビーフの缶詰の独特の形は、すべて品質のために産み出されたものだ。
まずは台形になった理由から。魚などほかの缶詰と違って、汁気の少ないコンビーフは、隙間なく缶に詰めるのが難しい。
缶詰にとって隙間は命取りだ。中に空気があると、中身が酸化して食べられなくなってしまう。
そこで考案されたのが台形の缶なのだ。第二次世界大戦後の一九五〇(昭和二五)年に登場している。
台形なら、広い下部の方から上部に向かって中身を詰め込むと、力が入って隙間なくぎゅっと押し込める。丸い缶ではこうはいかない。
台形の缶は別のメリットも産んだ。缶を開けて下部を持てば、フォークなどを使わなくても、中身をスポンと取り出せる。これを可能にした画期的な発明が、あのオープナーだ。
こうして考え出されたコンビーフの缶詰は、見事な機能美を持つに至っている。
なお、日本でいうコンビーフは、英語では「corned beef」。「corn」は「とうもろこし」と同じつづりだが、語源は古英語の「穀粒」で、肉や魚を「塩漬けにして保存する」という意味もある。牛肉を「粒にして」「塩漬け」にしたのがコンビーフだが、「コーンド・ビーフ」が「コンビーフ」では音が変わりすぎにも思える。
また、外国製缶詰では肉はブロックのままだ。世界的な産地はアルゼンチンで、牛皮を取った副産物として大量に生産されている。
| 東京書籍 (著:東京雑学研究会) 「雑学大全」 JLogosID : 12670364 |