ドイツワインの基礎知識
"ワインの北限エリアといわれるドイツ。ぶどう畑は北緯50度前後の地域に広がり、緯度的には寒冷地だが、暖流などの影響を受けて、生産地の年間平均気温はイタリアのトスカーナとほぼ同じ約10℃を保っている。一般にドイツワインというと日本では甘口の印象を持つ人が多いが、実際は辛口の生産量が半分以上を占める。日照時間の少ないドイツでは、ぶどうはゆっくり成熟するため、酸の分解や糖度の高まりも同じテンポで進み、それが豊かな酸と糖の絶妙なバランスに支えられた、ドイツワインならではのデリケートな味の世界を生む。生産量では世界の約3%にすぎないのに、世界の最高水準の白ワインを産出する名産国として評価される所以でもある。
おもな産地
ドイツ南西部を中心に、13の産地がある
【モーゼル】
ドイツ屈指の銘醸地。スレート土壌で育つリースリングは酸味と甘みの調和が絶妙な優雅な味わいを生み出す。
【ラインガウ】
小エリアながら有名な醸造所が集中し、意識の高い生産者による上質なリースリングがつくられている。
【フランケン】
ライン川支流マイン川周辺に広がる産地。シルヴァーナ種による辛口の白が主流。ボックスボイテルと呼ばれる形の瓶も特徴。
【プファルツ】
全85kmに及ぶドイツワイン街道沿いに広がる産地。最多品種はリースリング。モーゼルなどに比べて味わいは力強い。
【バーデン】
国内の産地では最南端に位置する。リースリングよりもピノ系が多い。
このほか、赤の生産量が多いヴュルテンベルクやアール、国内最大の栽培面積を誇るラインヘッセン、旧東独に2カ所の産地がある。
格付け
ワイン法の規定で次の4つに分けられる。
1:ドイチャーターフェルワイン
2:ドイチャーラントワイン
3:生産地限定上級ワイン=略称Q.b.A
4:生産地限定格付上級ワイン=略称Q.m.P
1と2は大半が地元で消費される日常用テーブルワイン。4は収穫時のぶどう糖度によってさらに次の6つに分類される。
1カビネット Kabinett
標準的な高級ワイン。幅広い料理に合わせやすい。
2シュペートレーゼ Spatlese
遅摘みぶどうでつくるワイン。1のカビネットに比べ凝縮感が強い。
3アウスレーゼ Auslese
完熟ぶどうでつくられる。香りと味わいが強い。
4ベーレンアウスレーゼ Beerenauslese
貴腐化したぶどうなどでつくる極甘口ワイン。
5アイスワイン Eiswein
寒波を待って自然凍結した粒を摘んでつくる。
6トロッケンベーレンアウスレーゼ rockenbeerenauslese
貴腐ぶどうを選んでつくる。世界三大貴腐ワインのひとつ。
甘・辛口のラベル表記は通常、辛口はトロッケンtrocken、中辛口はhalb trocken、記載のない場合は甘口に分類される。これに加えて2000年ヴィンテージからは辛口ワインであることを指す2つの新カテゴリーも誕生した。
(1)クラシック…各生産地域でクラシック用に認定された品種を使った中辛口~辛口ワイン。
(2)セレクション…畑の指定、収穫量など(1)よりさらに規定が厳しい高級辛口ワイン。
おもな品種
■リースリング(白)
今も昔もドイツを代表する品種。他国でも栽培されているが仕上がるワインの味はだいぶ異なり、ドイツ産のものは総じて豊かな酸と甘さの調和を生命線とする香り豊かなスタイルに仕上がる。甘口から辛口、フレッシュな若飲みのタイプから、アイスワインや貴腐ワインなど極甘口の高級ワインまでスタイルも幅広い。
■ミュラートゥルガウ(白)
ドイツの生産地域全域で広く栽培されており、別名リヴァーナともいわれる。酸は少なくデリケートなマスカット風味が心地よいフレッシュな辛口に仕上がることが多い。食事にも合わせやすい。
■シルヴァーナ(白)
フランケン地方を代表する品種。リースリングより酸味が低めで、肉料理にも合うようなコクのある辛口が特徴。
■ケルナー(白)
赤ワイン用のトロリンガーとリースリングの交配種。リースリングより果実味が強くフルーティー。
■グラウブルグンダー(白)
フランス語でピノ・グリ。バーデン地域など、ドイツのワイン生産地でも南寄りの地域で生産されることが多く、均整のとれたボリューム感のある辛口の白をつくる。
■シュペートブルグンダー(赤)
フランス語でピノ・ノワール。ブルゴーニュのピノが醸し出す個性とは違った、独自の味わいを生み出している生産者が多い。ドイツにおける赤ワインの主力品種でもある。"
| 東京書籍 (著:熊野 裕子) 「ワイン手帳」 JLogosID : 8538775 |