伝統医学①
【でんとういがく】
伝統医学と現代医学
◆現代医学と伝統医学との違い
本章では医学を「現代医学」と「伝統医学」に大別して説明しています。
言うまでもなく「現代医学」とは、私たちの周囲にある医院や病院で行われている医療、またはその理論を指します。「現代」といっても、そのルーツをたどれば「医学の祖」と呼ばれる古代ギリシャの医師・ヒポクラテスにまで遡りますから、長い歴史があるといえます。もちろん、現代の世界の主流をなす最先端の医療であることは間違いないでしょう。
これに対して「伝統医学」とは、現代医学とは異なる理論に基づいて治療しようというもので、東洋医学はその一つということになります。
◆西洋・東洋にもある伝統医学
日本では、現代医学のことを「西洋医学」と呼ぶことがあります。日本の立場だけに限定すれば、現代医学は西洋から伝えられたものですからこういう呼び方もありうるのですが、世界的に見ると正しい呼び方とはいえません。西洋にもいくつかの伝統医学があり、西洋医学という呼称で現代医学だけを示すことはできません。
西洋に伝統医学があるように、東洋医学でも同じことがいえます。ふだん私たちは「東洋医学=中国から伝わった伝統医学」ととらえています。伝統医学であることは間違いないにしろ、東洋=中国ではありませんから、中国の伝統医学だけを「東洋医学」と呼ぶのはおかしいことになります。
インドには、紀元前から続く古典医学「アーユルヴェーダ」がありますし、チベットにもチベット医学があります。どちらも東洋の伝統医学ですから、東洋医学は本来それらの総称として使うべきでしょう。
ただし本辞書では、まっすぐに中国の伝統医学を「東洋医学」と表現しています。日本の中だけならこの方が理解しやすいからです。
◆本家中国では「中医学」と呼ぶ
では、現在の中国では自分の国の伝統医学をどう呼ぶのでしょうか。
それは「中医学」、または単に「中医」と呼ばれます。もちろんこの名称は、あとになって入ってきた現代医学と区別するためのもので、起源が三千年前とも五千年前ともいわれる歴史の中で、最初から「中医学」と呼ばれていたわけではありません。
また、現代医学については「西医学」または「西医」と呼び、中医学と現代医学を合わせたものを「中西結合」と呼んでいます。
| 日本実業出版社 (著:関口善太) 「東洋医学のしくみ」 JLogosID : 5030032 |