パリでも馬肉は「トレビアン」
30年ほど前のこと、主婦の友社で江上トミ先生の『西洋料理』という単行本をまとめたとき、「馬肉は消化がよいから、フランスでは子どもや病人に食べさせるのよ」と聞きました。日本では九州や東北の各地、長野県などで食べられているとは知っていましたが、私自身は食べたことがなかったので驚きました。
その後、すしの取材で熊本を訪れたとき、なんと握りのたねに馬肉が使われていて、まぐろのトロよりおいしいので感激しました。また、十数時間の旅で疲れきってパリに着き、夕飯に訪れたレストランで「馬肉のタルタル」というメニューを見ました。江上先生の話を思い出し、「疲れているからこれ」と注文したら、マダムが大きくうなずいて「トレビアン」とほめました。オリーブオイルと塩、胡椒程度の味つけでおいしゅうございました。
馬肉専門の森下のみの家、日本堤の中江あたりで男たちが馬刺しや桜鍋でスタミナをつけ、吉原に繰り出したという話も聞きました。両国のもゝんじやは猪や鹿、熊などの獣肉を食べさせる店。猪や鹿、熊は昔から猟師仲間のごちそうとされていました。最近は田畑を荒らす害獣として扱われて、ちょっと気の毒です。
| 東京書籍 (著:岸 朝子/選) 「東京五つ星の肉料理」 JLogosID : 14070903 |