若き日の鶏鍋に感謝、兄嫁に感謝
昭和20年、空襲が激しくなった東京から愛知県の夫の実家に移り、長女を出産しました。そこで初めて食べたのが鶏鍋。妊婦の栄養にと毎朝、生みたての卵1個を兄嫁がエプロンの下に隠し持ってきて食べさせてくれた恩は忘れられません。その卵を生んでくれた鶏の1羽が主役の鍋のおいしかったこと。愛知県といえば、名古屋コーチンが薩摩地鶏や秋田の比内地鶏と並んで日本三大美味鶏として有名ですが、鍋にするとは当時知りませんでした。
料理記者になってから、神田のぼたんはじめ相鴨専門店の鳥安、味噌仕立てのしゃも鍋が名物のかど家など、伝統を感じさせるさまざまな店を食べ歩きました。牛肉を食べ慣れない日本人の舌に合う料理だったのでしょう。屋台で食べて目を丸くした焼き鳥も近ごろは専門店が増えたし、レバーや軟骨、こぶくろなどを材料にした、焼き鳥ならぬ焼きとんの店もずいぶんあります。
戦前は高価だった鶏肉も戦後はブロイラーの飼育が盛んになって、卵は安定価格の優等生とさえいわれます。クリスマスにはお決まりのローストチキンやチキンフライ、から揚げなど、洋食店にはもちろん家庭の食卓にも欠かせないメニューです。
| 東京書籍 (著:岸 朝子/選) 「東京五つ星の肉料理」 JLogosID : 14070902 |