▼クエ鍋のとろけるような旨味
民宿「共栄」のクエ鍋とクエの湯引きが容易ならぬおいしさだった。クエ鍋にはクエの皮付き白身に加えて、ハクサイ、シュンギク、シイタケ、ニンジン、エノキ、マイタケの野菜類。皮はコリコリとした歯ごたえが心地よく、そのあとから特有な香りととろけるような旨味が口中を襲う。ほかのどんな魚にもないおいしさだ。脂分の多い身が、ポン酢と紅葉おろし、青ネギのタレにこれ以上ないほどよく合う。雑炊がまた絶品。クエの旨味がご飯にからまり、フグ雑炊に勝っても劣らない。
クエの湯引きは案外と身が締まり、脂分が多いのに口当たりがよい。よほど上質な脂なのだろう。「日ノ岬周辺で釣ったクエが一番うまい。同じ紀伊半島でもほかで獲れたクエはうまかないなあ」と脇山さんが自慢するだけのことはある。阿尾ではほかに、胃袋の辛子酢味噌和え、肝の湯通し、フライ、あら煮などでクエを食べるそうだ。ただし、以前は市場価値がないために漁師だけが食べていたというクエも、今や目の玉が飛び出るほど高価になった。1キロ1万円もするときがあり、「産地でも食べる機会が少ない」と漁師は嘆くのである。
| 東京書籍 (著:東京書籍) 「旬のうまい魚を知る本」 JLogosID : 14070508 |