【旬のうまい魚を知る本】 >
▼小型定置網でブドウイカを漁獲

初夏のある日、ブドウイカを食べたくなって、若狭湾のほぼ中央に突き出た常神半島の先端まで足を向けたことがある。ここ常神は小さな集落なのに、大敷網、小型定置網、刺網、一本釣り、素潜り、籠網、サヨリ網など多種の漁法があり、四季にわたって豊富な魚種が水揚げされる。食いしん坊のぼくが、こんな土地を好むのはいうまでもない。
常神では民宿「なかむら」を営む漁師の中村東洋士さんが、小型定置網漁に誘ってくれた。まだ暗いうちに港を出て、10分も走ると漁場に到着。漁師がもっとも胸高まるときだ。袋網の底を船縁まで引き上げると、青い魚が網の中で元気よく跳ね回った。トビウオやスズキ、マアジなどの青い色の魚に混ざって、胴の長さ20センチほどのイカを発見。「これがマイカだ」と中村さんの声が飛ぶ。タモですくって船上に上げると、半透明のベージュ色が少しずつ赤色に変化していく。大きなブドウイカは生簀の中へ。「今晩の活き造り用」と聞いて、思わずニッコリして、ついでにゴクリとのどを鳴らしてしまった。
![]() | 東京書籍 (著:東京書籍) 「旬のうまい魚を知る本」 JLogosID : 14070444 |