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【れこーど】
「悪魔の機械」と恐れられた画期的な発明品
「悪魔の機械」と恐れられた機械を発明した、不幸な男の一生がここにある。名前はシャルル・クロス。フランスの詩人だ。彼は、ユーモアあふれる詩でその名を知られていたが、発明家としても世間では有名だった。ところが、様々な画期的なものを発明するも、他人にアイデアを盗まれたり、偶然同じ発明をした男に先を越されたりと、ついていないことが多く、いつも悔しい思いをしていた。しかし、そんなクロスにも救いの神はいたのだ。ショーヌ公爵というパトロンである。彼はルイ一三世の寵臣の子孫という資産家。そして自身も熱心な発明家で、クロスに過分の手当を与えたり自分の城に実験室をつくって、そこを自由に使わせてくれた。クロスが熱心に研究しているのが「悪魔の機械」と恐れられていた「蓄音機」だったとしても、ショーヌ公爵はクロスのパトロンであり続けた。その後、クロスは長年とり組んできた蓄音機の研究成果を論文として科学アカデミーに報告した。現代のレコードとほぼ同じ原理の平円盤レコードだ。それから今度は、発明の優先権を死守しようとマスコミに記事を売り込んだり、支持者にあれこれ宣伝を頼んだりした。しかし、そんなクロスを世間は誰も相手にしてくれず、アカデミーも新聞もクロスを取り上げることはなかった。それだけではない。敬けんなカトリックの信者であるショーヌ公爵夫人は「言葉は神だけがつくることを許されているもので、そんな機械を発明することは神を冒涜するものだ」と大激怒したのである。それは、当時、人の声を再生することは魔術と同じく不気味なことに思われていたからだ。しかし、アメリカのトマス・エジソンという男が自分と同じ実験をしているのを知っていたクロスは、負けるわけにはいかないと闘争心をむき出しにしていたのである。理論面では、クロスがエジソンをはるかに抜いていた。だが、最終段階でエジソンは勝利することになる。実際に機械をつくったことが大きな要因になった。アカデミーに代理人を送り、つくった機械を提示し聴衆テストもおこなった。そして成功した結果、厚意的にアカデミーに迎えられたのである。クロスはまたも完敗したのである。しかし、それでもあきらめられない彼は、その後アカデミーに手紙を書いて優先権を訴えたのだが、まったく相手にされなかった。いつしかショーヌ公爵の援助も中断され、クロスは酒びたりになり、自暴自棄な日々を送るようになる。享年四六歳だった。なぜクロスは、いち早く蓄音機の研究結果をアカデミーに提出したのにもかかわらず、世間に相手にされなかったのか。すばらしいアイデアがあっても、実際に形にならなければ何の意味もないということなのだろうか。一方、勝利したエジソンの蓄音機は、現在でもその形をとどめている。
| 東京書籍 (著:東京雑学研究会) 「雑学大全2」 JLogosID : 14820964 |