シュリーマン
【しゅりーまん】
来日後、まずめざしたのは八王子
シュリーマンは、トロイ遺跡を発掘したことで有名なドイツ商人、考古学者である。貧しい家に生まれた彼は、中学を出ると小売店の小僧となる。職を転々としながらも商才を発揮し、富を得るようになった。そしてトロイの発掘調査費を自弁するために、貿易などの事業に奔走しつつ、ギリシア文学史上最古の長編叙事詩『イーリアス』の研究と語学に勤しんだのである。一八六三年、四一歳のとき、発掘調査に必要な費用が用意できた彼は、さっさと事業をたたみ、自分の夢であるトロイ遺跡の発掘をめざすようになった。そしてこの頃、世界一周の旅に出て旅行記を書いている。日本と中国にも立ち寄り、貪欲なくらいの好奇心で当時の生活を観察し、感想を述べているのである(石井和子訳『シュリーマン旅行記清国・日本』講談社学術文庫)。そのなかで彼は、日本に立ち寄った理由として「江戸の驚異がしばしば話題にされていたので、私はぜひ江戸を訪れてみたいと思っていた」と述べている。一八六五(慶応元)年、シュリーマンは横浜のホテルに旅の荷を解いた。そして、彼が最初に向かった先は八王子であった。というのも、八王子はかつて、機織の町として栄え、絹織物の主産地でもあった。カイコが吐き出した細い糸でできた織物は透明感とつややかさに満ち、シュリーマンは旅行記に「最も興味深かったものの一つ」と書いている。また彼は、日本人の清潔好きにも驚いて、「目につく限り、隅々まで行き届きすぎるくらい清潔で整然としている。鼻をかんだ後も無神経に紙を路上に捨てたりしない」と述べており、さらに、清潔なのは家や路上ばかりでなく、「船人足」が要求する運賃はまったく正当な金額であり、賄賂を拒否する役人の清潔さにも感嘆している。シュリーマンが最も驚いたのは、浴場での混浴だった。浴場の前を通ったら「アダムとイブそのまま」の丸裸の男女がぞろぞろ出てきて、シュリーマンを「見物した」のだという。羞恥心もなければ風紀の乱れる様子もないことに、彼はなかばあきれ気味に「なんという聖なる単純さ」と記している。
| 東京書籍 (著:東京雑学研究会) 「雑学大全2」 JLogosID : 14820414 |