山田錦
【東京雑学研究会編】
§酒造りに使われる「白い宝石」とは?
日本酒の原料にする米は、普通のご飯用の米よりもずっと強く精米し、酒造りには米粒のうち「心白」と呼ばれる中心部分だけが使われる。玄米に含まれるタンパク質や脂肪分、ビタミンなどを取り除く必要があるからだ。
それをもう一度水につけて、玄米水分になるまで調質という作業を行う。うまい水のあるところ、うまい酒ができるというのは、このときに使う水のためなのだ。
普通のご飯用白米は、一割弱の精米で終わるのに対し、酒造りに使う酒米は普通で三割、吟醸酒となると五~六割が精米で取り除かれるのだ。「山田錦」という品種の米は、それだけ精米しても残る心白部分が大きく、粗タンパク質も少ないことが特徴。これが「白い宝石」と呼ばれるゆえんで、吟醸酒のほか、モトと呼ばれる酒母造りにも最適である。
大きな心白は、精米に強く壊れにくいうえ、よく水を吸ってふっくらとした麹になるし、低温でゆっくり糖化してうまい吟醸酒となるのだ。
ただ、宝石と言われるようになったのにはもう一つ理由があって、こんないい酒米なのに栽培が難しい。地元では八八回生まれ変わると呼ばれるほど手間のかかる米なのだ。
稲穂の丈は、普通のうるち米より高く、実が大きいため穂は垂れやすく、倒伏が起こるし、刈り入れ時期が遅くなるため、台風などの被害も受けやすい。また味をよくするためには、昼夜の温度差が激しい田んぼでの栽培が必要で、それに適した土地探しも大変だ。それだけに収穫量も少なく、幻の米と言われた時期もあった。
この山田錦、兵庫県の美嚢郡吉川町、多可郡中町、神戸市北区山田町などが発祥の地といわれているが、六甲の宮水と呼ばれる名水を生かさんがために、地元の人の酒米栽培への執念が生んだ白い宝石である。
| 東京書籍 (著:東京雑学研究会) 「雑学大全」 JLogosID : 12670938 |