手刀
【東京雑学研究会編】
§人の前を通るとき手刀を切るのはなぜか?
手刀というのは、手のひらを広げて動かし、空を切るようにすることだが、大相撲の力士が懸賞金を受け取るときのしぐさとして知られている。その行為には、手刀を切って神聖なものに感謝してから頂戴するという意味が込められているが、日常生活でもこの手刀が登場するシーンは多い。
例えば、人ごみをかき分けるときなど、それこそ「ごめんなすって」という感じで手刀を切りながら隙間をつくるし、他人の前を横切るときも、腰を落としながら手のひらを上に向けて差し出しながら歩く。
これは、動物的な本能に基づく行動だ。
動物には、その行動範囲であるテリトリーがあり、その縄張りへの侵入者に対しては警戒心を抱いたり、攻撃に出たりする。この本能を利用したのが番犬で、わが家の庭や室内をテリトリーと考えているため、外来の客や新聞の配達人に吠えたりする。
人間にもその本能があり、ただ立っているだけ、座っているだけでも、自分の周囲にパーソナルスペースとしての領域意識を持っている。その意識があるから、自分が他人の領域を通ったり侵入したりすると思われるとき、手のひらを上に向けて出して手刀を切り、敵意のないことを示しながら、通らせてくださいというお願いや、快く通らせてくださってありがとうという感謝の気持ちを表すのだ。
この手刀を切った空間が、通るときだけ相手からその人の空間となることを、相手も手刀をきった当人も暗黙のうちに了解しているといえる。
| 東京書籍 (著:東京雑学研究会) 「雑学大全」 JLogosID : 12670634 |