サケ
【東京雑学研究会編】
§サケは生まれた川の匂いを記憶している?
川で卵から生まれたサケの幼魚は、川を下って海へと泳いでいく。大海原に出て長い旅をするのだが、四年ほど経つと、またもとの川へ帰ってくる。帰り道の距離は、一三〇〇~一四〇〇キロメートルにも及ぶ。
川へ上ってくるときは、もはやエサを口にせず、産卵や放精をするためだけの苦しい旅である。そして、務めを果たしたサケは、そこで死んでしまう。なぜサケは、これほどの時間と距離をものともせず、故郷の川へと帰って来られるのだろう?
サケの帰巣能力のもとになっているのは、嗅覚だと考えられている。
そもそも、サケのみならず、ほとんどの魚の鼻孔には、二つに分かれた開口部があり、すぐれた嗅覚のもとになっている。一つの口から水が入り、もう一つの口から出るまでの間に、鼻孔内が刺激を受け、それが中枢神経に伝わって匂いを感じるのである。
東京大学の上田一夫教授らは、次のような実験を行った。北日本を流れるいくつかの川の水を集めて、サケの鼻にそれをかけ、脳の電流の変化を調べてみた。すると、電流が大きく変化したのは、そのサケが生まれた川の水をかけたときだけだったのである。
この実験から、サケは自分が生まれた川の匂いを知覚できることがわかった。だが、匂いの素となっている物質が何なのかは、わかっていない。川の水を分析して溶けている物質を分離し、その液を与えても、確認することはできなかったのである。
恐らくは、サケが手がかりにする物質は一つではなく、水草や岩の成分が溶けたものなど、いろいろな物質の複雑な組み合わせで、その川ならではのものではないかと推測される。
カナダの研究者グループが、フレーザー川(カナダ南西部)の支流で生まれたサケの幼魚約四七万匹に標識をつけて放流し、その後一万匹を回収したのだが、ほかの川に迷い込んだサケは一匹も見つからなかった。それほど、サケの匂いの記憶は強固なのである。
| 東京書籍 (著:東京雑学研究会) 「雑学大全」 JLogosID : 12670381 |